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相手を知ること、想像することで世の中はもっと暮らしやすくなる。私たちのアクセシビリティへの取り組み

「もし手をケガして、パソコンのキーボードを打てなくなったら」

「老眼が進み、今読めている文字が読めなくなったら」

それは、誰しもに起きる可能性があること。そしてその結果、今まで何気なくできていたことの前に、急に大きな壁が立ち塞がることがあります。

「すべてのサービスと製品を、誰にとっても使いやすいものにし、必要な情報にアクセスしやすくする」

ソニーネットワークコミュニケーションズはそんな目標のもと、アクセシビリティに関する取り組みを続けています。アクセシビリティの重要性や具体的な内容について、担当する二人に話を聞きました。


身近にある。アクセシビリティへの配慮不足

――まず初めに、「アクセシビリティ」とは何ですか?

大賀:アクセシビリティとは「年齢や身体的条件に関係なく、誰でも必要とする情報にたどり着け、利用できること」を指します。「障がいのある方も使いやすいように」という文脈で使われることも多い言葉ですが、加齢によるハンディキャップを埋めるのもアクセシビリティの取り組みの一つ。人は誰しも老いることを考えると、すべての人にかかわりのある話なんですよね。

――普段の暮らしの中で「情報へのアクセスのしづらさ」を体感したり、想像したりすることはありますか?

小林:私自身、数年前に比べて名刺やウェブサイトの小さな文字は本当に見づらくなりましたね。また、空港やターミナル駅には当然のようにエレベーターがあり、さまざまな言語で案内板の表示がされている一方、ローカル線などでは設備が十分ではない、まだまだ追いついていないと感じる駅もあります。利用者数を鑑みたときにやむを得ないとはいえ、足の不自由な方や海外の方は、不便さを感じるだろうなと想像しています。

大賀:私は、スポーツクラブのモニター付きランニングマシンで、イヤホンなしでテレビを見ていると、字幕非対応の番組やCMがあることに気づきます。そんなときに、やはりアクセシビリティに関する意識の差を感じることがありますね。

――数年前まで、「皆が使いやすいか」「必要な情報へアクセスできるか」という視点は、世の中にほとんど浸透していなかったように感じます。

小林:そうですね。世の中のサービスや製品の品質にアクセシビリティの視点が加わったのは、感覚としてはSDGsが唱えられるようになって以降だと感じます。ソニーグループ全体として「誰もが感動を分かち合える未来を、イノベーションの力で。」をテーマにアクセシビリティを推進しています。

あなたは目の前の壁に気づけますか?――体験から得る「気づき」の視点

――ソニーネットワークコミュニケーションズでは、アクセシビリティに対してどのような取り組みをおこなっていますか?

大賀:大きく分けてふたつ。ひとつめはウェブサイトで、以下の取り組みをおこなっています。

  1. ウェブサイト公開前にWCAG(※)の適合性を確認

  2. 公開済みウェブサイトの定期的巡回

  3. モバイルアプリとブラウザにおける見え方の整合

(※)WCAG:Web Content Accessibility Guidelinesの略で、ウェブコンテンツを誰にとっても扱いやすくするための国際的な推奨事項のこと。「音声コンテンツに対して、キャプションが提供されている」「文字が拡大できるか」などの項目がある

例えば、新しくウェブサイトをつくる際アクセシビリティの観点からもチェックします。そこでは「どのように見えるか」の見た目のチェックをはじめ、テキスト読み上げ機能を使ったときの読み上げ内容の確認もおこないます(「音声でも正しく意味がわかるか」「画像も音声で説明できる設定をしているか」など)。

小林:文章表記に関しても、さまざまな方の視点から最適な言い回しや表現になっているかチェックすることも。国名や地名をはじめ、当事者の視点で考えなければならない問題はたくさんあります。

大賀 祐子(情報基盤・開発部門 品質マネジメント部/趣味はダンス・ジョギング)

大賀:ふたつめは、アクセシビリティにも配慮した、ソニーグループが取り入れているインクルーシブデザインを当社の商品化プロセスにも取り込むことです。ソニーグループでは2025年までに、原則すべての製品・サービスで対応することを宣言しています。

小林:例えば、子ども見守りGPS「amue link(アミューリンク)」を使って、視覚障がいのある方にセットアップを体験いただき、どこに障壁を感じるかをモニタリングする取り組みもおこないました。モニタリングを通じて、自分たちの発想になかった新たな気づきを得ることができ、「二次元コードの場所をモバイルアプリに追記する」などの対応に繋がりました。

モニタリングには担当部署以外からも200名以上の社員が参加。その日得た気づきをそれぞれの業務に持ち帰り、各サービスに活かしています。

このように、今後はサービス企画の段階から多様な方に参画いただき、共にシステムやサービスをつくり上げていくプロセス型のアプローチに取り組んでいくつもりです。

色覚の違いを体験し、ハッとする瞬間も。アクセシビリティの体験で知った世の中の見え方

――社員一人ひとりが多角的な視点を持つための研修や社内イベントも開催していますよね。

大賀:e-Learningのほか、2023年の品質月間には、アクセシビリティをカジュアルに体験できる場として、色覚障がい体験・視覚障がい体験・エマージェンシーコール操作体験ブースを社内に設置しました。

特に、色覚障がい体験として用意した、色覚の違いを体験できるメガネは多くの驚きがあったようです。

左の光景が、色覚の違いを体験できるメガネを通すと右のように。赤と緑の識別が難しいことが「体感」として理解できる

大賀:体験者の中には、自らが手がけたWebサイトや販促用のクリエイティブを見て「こんなふうに見えていたのか」と愕然としたり、「理解はしていたつもりだけど、メガネをかけた瞬間に、やっと見えている世界がわかった」と話したりする方も。その後、「新しいチラシの見え方を確認したいので、あのときのメガネを貸してもらえませんか?」と言われることもありました。

また、音声読み上げソフトでは、日付を「4/1」と表記すると「よんスラッシュいち」と読み上げられてしまう、これも衝撃だったようです。悪気はなくても、一部の人にとっては非常に理解しづらくなっていることが伝わり、「大変興味深く、この経験を仕事に生かしたい」という意見が上がりました。

小林:ソニーグループとしてはエンタテインメント・テクノロジー&サービス分野を中心に、経営陣を含むマネジメント層に向けてインクルーシブデザイン研修もおこなっています。統括課長以上を対象に、実際に視覚や聴覚、身体などに何らかの制約がある方に「リードユーザー」として参加していただき計5名のグループで街や駅をフィールドワークし、どのようなシーンに困りごとがあるかを疑似的に体験。その経験から「誰もが使いやすい商品」の企画を実施するというもので、これまでソニーネットワークコミュニケーションズからも100名以上が参加しています。

障がいとは人にあるものではなく社会にあるもの、という考え方があります。インフラ周りは特に顕著で、駅などは健常者の利用を前提としたデザインになってしまっていますよね。普段利用する駅の中を目をつむって歩くことを想像すれば、どれだけ怖いか、不便なつくりになっているかがわかります。これらの経験を通して、私たちのつくるサービスに欠かせない視点を得られていると感じています。

小林 正和(情報基盤・開発部門 品質マネジメント部 部長/趣味はカメラ・飛行機)

「誰のために」と区切るものではない。アクセシビリティへの取り組みで、皆にとって暮らしやすい社会が実現する

――アクセシビリティの対応を通じて、どのようなことを実現させたいですか?

大賀:私たちのミッションは、ソニーネットワークコミュニケーションズが発信する情報を、その情報がほしい人たちに正しく届けられるようにすることです。最近はSNSやアプリなどいろいろなツールが増えてきています。新しいものを取り入れていく中で、世の中のできるだけ多くの皆さんがキャッチできるような発信を支えていけたらと思っています。

小林:2024年4月には障害者差別解消法が改正され、民間企業の合理的配慮が義務化されました。社会全体をすぐに変えるのは難しいけれど、皆で取り組むことで、誰にとっても暮らしやすい社会を実現できたら。私たちはそこに対応していく必要があると感じています。

大賀:余談になりますが、誰にとってもアクセスしやすい状態にすることで、じつは障がい者や高齢者だけでなく、全員にとってたくさんのいいことがあります。

例えば、色覚障がいのある方が赤と緑を別の色として見えるようにするには「色彩のコントラスト比を上げ、明暗を強くする」ことも解決方法のひとつです。これは一見、色覚障がいのある方だけへの配慮のようですが、コントラスト比の高い画像って誰にとっても非常に見やすいものなんです。強い日差しのもとでだとスマートフォンの画面が見えにくくなることがありますが、あれがくっきり見えるようになるんですよね。

小林:ほかにも、字幕が入れば音が出せないシチュエーションでも動画の内容を知ることができます。そんなふうにアクセシビリティは「誰のために」と区切るものではなく、皆のためにというものなのだと思います。そうやって少しずつ、誰にとっても暮らしやすい社会を実現させていきたいですね。


最後までお読みいただきありがとうございました。
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※読者の方からのご指摘を踏まえ、一部内容を変更いたしました。(2024年6月)

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