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安全・安心に生きられる社会をつくりたい。ELTRESが変える、私たちの未来とは

「ITで世の中の”困った”を解決したい」

農業・畜産業界の後継者不足や水難事故での救助活動、災害リスクの低減や防災対策など、これまで人の手に委ねられていたものをIoT化することで、私たちの暮らしはより良いものになるはず。そんな思いを持って誕生したのが、ソニー独自のLPWA(低消費電力広域)無線通信規格である「ELTRES™」(エルトレス)です。2019年からは商用サービスとして本格始動し、スマートシティやスマート農業、物流DXなど幅広い分野でのIoT化を後押しています。

ELTRESの誕生からこれまでのあゆみと今後について、技術開発を担うソニーセミコンダクタソリューションズ、サービス展開を担うソニーネットワークコミュニケーションズの各担当者に話を聞きました。

ELTRES™…長距離安定通信、高速移動体通信、低消費電力という特長を持つ、ソニー独自の低消費電力広域(LPWA)無線通信規格。見通し100㎞以上の長距離でのデータ通信や、時速100㎞以上で高速移動する電車などでも安定した無線通信を実現。GNSS(グローバル衛星測位システム)を活用した位置/時刻情報の取得も可能。

「これは未来を変える技術だ」。事業担当者がELTRESに感じた可能性

――16mm角の小さなモジュールを端末に入れることで、さまざまなもののIoT化が叶うELTRES。事業化を進めてきた北園さん、ELTRES誕生のきっかけを教えてください。

北園:私は1985年にソニーに入社して以来、テレビに使用されるチューナー用半導体の設計を担当してきました。衛星放送用や地上デジタル放送用LSIなどで事業拡大し、約30年に渡り半導体の技術に携わったのですが、次第に「この技術を応用し、もっと新しいことに挑戦したい」と感じるようになりました。

そんなとき、社内の技術発表会で、のちにELTRESの核となる技術と出会いました。ソニーが世界に誇る高周波技術やアナログLSI設計技術、CDやBlu-rayレコーダーなどに採用されている技術の一部を組み合わせた画期的なものでした。

――そのときは、どのように感じましたか?

北園:率直に「すごい技術だし面白い!」と思いました。送信するデータ量は少ないですが、微弱な電波で遠くまでデータを届けられる。大電力で高精細画像を伝送するテレビ放送システムとは真逆です。また何より、「わかりやすいこと」に惹かれましたね。特徴がシンプルで、いろいろな人に理解されやすいと感じました。

往々にして技術とは複雑化し高度化していくもので、何に応用できるかが難しいものですが、この技術は直感的に「こんなものに使えそう」と連想できるのが素晴らしく、さまざまなビジネスを生み出す可能性を秘めたものだと思いました。

北園 真一(ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社システムソリューション事業部/趣味は大人の遠足とロードバイクでのポタリング。加えて最近はフライフィッシング。緻密なフライを自作します)

――事業化するまでに、大変だったことはありますか?

北園:「面白い技術だけど、どれだけ売れますか」と言われてしまったことですね。

ELTRES通信専用の無線LSIを開発しましたが、それだけで「ELTRES IoTネットワークサービス」で使えるセンサー端末を作れる訳ではありません。お客さまが簡単にセンサー端末を作れるようにするために、GNSS LSIなども組み込んだモジュール製品として提供することを構想。そして製品化の段階で各モジュールメーカーに通信モジュールの製造を打診したところ、技術的な難しさもあり軒並み断られてしまいました。当時、IoTはまだ黎明期。業界的にも、どれだけの事業規模になるかがまったく見えていなかったのです。

――それは大きな壁でしたね。どのように解決したのですか?

北園:もう、自分たちで作るしかないな、と。私たちはものづくりのメーカーですから、すぐに自社で作ることに切り替えて開発を続けました。ところが、我々は基本的にLSI単体やイメージセンサーを製造するメーカーですので、構想したような複数のLSIやチップ部品を百数十個も搭載するモジュールを製造する仕組みもなく、苦労の連続でした。なんとかなりましたが。

16mmの通信モジュールは指先に乗るサイズ。この中に「送信LSI」「GNSS LSI」「マイコン」「フラッシュメモリ」その他ELTRES通信に必要な部品すべてが搭載されている

北園:じつはもう一つ壁があり、途中この研究自体が立ち消えになる可能性があったのです。

「待ちの姿勢でいたらそのままなくなってしまう」と思い、なんとか経営陣に「この技術がいかにすごいか」や「未来を変える可能性を秘めた技術であること」を伝えられないかを模索しました。賛同者が多かったこともありますし、幸運にも経営陣の目に留まった結果、有用性が認められ、事業化に向けて一気に加速していきました。

防災・車両・酪農など、アイデア次第でさまざまな業界の「困った」を解決

――マーケティング担当のおふたりにお聞きします。現在どのような業界で導入されていますか?

深田:広く様々な業界でELTRESを活用したソリューションを展開していますが、特に注目いただいているのは、災害時の救助や行方不明者の早期発見などの防災面です。

例えば、「SEAKER_L3」(開発:QUADRA PLANNING株式会社)は、ダイビングやシュノーケリングの際に身に着け、もしもの水難時に位置情報を発信できるというもの。ELTRESは地上のアンテナから100km離れていても通信できるため、沖縄本島の領海(12海里=約22.2km)のほぼ全域をカバーできます。

水深45mまでの耐圧・防水性能をもち、耐振機能も備えるSEAKER_L3。クルージングや釣り、ダイビングなどさまざまなシーンで利用できる

深田:また、コロナ禍で宅配ニーズが増えたこともあり、ドライバーの労務管理や運行管理を行うシステムの開発を進めているパートナーもあります。5台以上の商用車を持つ企業では運行日報の作成が課せられていますが、このシステムを搭載することで位置情報を含めて全てのデータをクラウド上に保有できるため、ドライバー自身での日報作成が不要に。これにより業務負担の軽減にも繋がります。

――さまざまな社会課題を解決できる可能性を感じます。他にはどのような業界で導入されているのですか?

杉本:他には、農業や畜産業界での導入も進んでいます。「カウカウココイル」(開発:YL17株式会社)は、広い放牧エリアから探している牛がいまどこにいるかを見つけ出せるもの。健康状態のチェックや発情の有無を確認し、生産効率を下げずに牛たちにとって良い環境で酪農を行うことが可能になっています。

取り付け位置は牛の後頭部。端末が小さく軽いため、牛の負担になることもない

杉本:特に一次産業での活用が目覚ましいですが、物流のモニタリングや、子どもや高齢者の見守りの用途でも使われており、アイデア次第でさまざまな業界でご活用いただけると感じています。

深田:多くのケースに共通するのが、「広範囲・長時間に及ぶ見守り」かつ「既存システムではコスト面で折り合いがつかずに導入を断念していた」という点。人の力でどうにかするしかなかった、あらゆるものを変えていけると実感しています。

(左から)
杉本 心(IoT事業部営業推進部/趣味は旅行・買い物・映画鑑賞。一番好きな映画は『KILL BILL』)
深田 純平(IoT事業部営業推進部/趣味はイラスト作成。描いたイラストを飾ったりステッカーにしたりして、おうち時間を満喫中)

安全・安心に生きられる社会をつくる。ELTRESが目指す未来

――お客さまからはどのようなリアクションがありますか?

杉本:驚かれるのは、やはり安さですね。展示会に出展して知ったのは、思っていた以上に「やろうと思っているが、費用面で頭打ちになっていた」という声があること。例えば、河川の見守りでは、国土交通省が主管となる一級河川以外は各自治体に委ねられているので、これまでコスト面で断念していたケースが非常に多いようです。また、防災関連で導入していただいたのち、有用性を感じて農業に転用いただくケースも増えています。

――最後に、今後のELTRESの展望を教えてください。

深田:アプリやソリューションの構築、端末製造などをおこなうパートナー企業に向けた支援にも、より力を入れていきたいです。ELTRESを活用したビジネスをお考えのお客さまに向けて用意した「パートナープログラム」には、現在約300社に参加していただいていますが、「ELTRES Days」などのイベントやオンラインセミナー、事例紹介などを通じて、それぞれに強みを持つパートナー企業同士をお繋ぎすることで、より多くの課題解決に貢献していきたいと思っています。

杉本:まだまだELTRESを知らないお客さまも多いので、まずは知っていただく機会を増やしたいですね。最近だと、学生コンテストも開催しています(※)。学生さんのやわらかい発想で、「こんなことやってみたい!」というアイデアを募集することで、私たちも新しい考え方に出会う機会をもらっています。こういったコンテストも、ELTRESがわかりやすい技術であるからこそ成り立つことだと感じています。
※募集期間は終了。

北園:ELTRESはアイデア次第でさまざまにお使いいただけるものです。業種を問わず業務の効率化が叶い、人や世の中を見守り、生活の安心感を高められる。その結果、多様な社会課題の解決が叶うと私たちは信じています。ELTRESを通じて、人が生きるうえで、安全・安心な社会を作っていきたいですね。


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