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「これ何?」から始まるサステナの対話。竹・さとうきび・リサイクルペーパーからできた名刺とは

皆さんは、自分がリサイクルに回した資源の「その後」を見たことはありますか?

2025年1月より、ソニーネットワークコミュニケーションズでは名刺の素材に「オリジナルブレンドマテリアル」を採用しました。

オリジナルブレンドマテリアルとは、ソニーが開発した環境に配慮した紙素材。従来のサステナブル素材と何が違うのか、誕生秘話や製作にかけた想いについて、開発に携わったソニーグループ株式会社 クリエイティブセンターのデザイナーに話を聞きました。


原材料は「竹」「さとうきびの搾りかす」「リサイクルペーパー」。「オリジナルブレンドマテリアル」ってどんなもの?

ソニーネットワークコミュニケーションズが名刺の素材として採用したのは、ソニーが開発した「オリジナルブレンドマテリアル」です。

オリジナルブレンドマテリアルとは、パッケージにおける素材循環を実現することを目的に開発された紙素材。「竹」「さとうきびの搾りかす」「リサイクルペーパー」の3つを原材料としており、2021年よりさまざまなソニー製品のパッケージに採用されています。

オリジナルブレンドマテリアルの原材料。左から、「竹」「さとうきびの搾りかす」「リサイクルペーパー」
オリジナルブレンドマテリアルを使用したパッケージ

短期間で成長する「竹」、砂糖を生成する過程で残る「さとうきびの搾りかす」、市場で循環する「リサイクルペーパー」を採用し、自然界に与える影響を小さくすることを目指したオリジナルブレンドマテリアル。3つの原材料の配合を変えることにより厚紙から超薄紙、立体成型まで可能で、分厚く強固にしたいときは「竹」を多く配合、薄くやわらかさを持たせたいときは「さとうきびの搾りかす」を多く配合するなど、用途に合わせて自在に変えられます。

頑丈な厚紙から透けるほど薄い紙まで展開できるため、さまざまな用途に対応が可能

名刺の色味は少しくすんだグレーですが、すべて同一色ではないのも特色です。リサイクルペーパーは季節ごとに回収される広告や古紙などの色合いが変わりますが、素材の持ち味を生かすために無着色で使用しています。

クラフト紙のような手触りのある名刺の質感。中華圏の春節の後には赤いリサイクルペーパーが多く出回ることから、赤みのある粒が混ざることも

素材循環を生むために重要なのは、「どこに立って物事を考えるか」。行動に繋げるために必要な、たった一つのこと

――オリジナルブレンドマテリアル開発のきっかけを教えてください。

廣瀬:長年パッケージデザインに携わる中で、「脱プラスチック」をテーマに新たな素材をつくれないかと考えてきました。「石油由来からの脱却がかなう単一素材」のアイデアを温めていたところ、社会の流れや会社の考えに一致したことが開発のきっかけになりました。

――そもそも、リサイクルにおいてなぜ単一素材であることが必要なのですか。

廣瀬:たとえばプラスチックや紙などが混在している複合素材の場合、分別しなければリサイクルできません。単一素材であれば、分別せずにそのままリサイクルに回せます。そのため、「単一素材で完結させること」を前提に、脱プラスチックの壁を何とか突破したいと考えていました。

――脱プラスチックは重要であるものの、「素材として万能なプラスチックと同じことが、自然由来の紙にできるの?」と感じてしまいます。廣瀬さんはその疑いを持ちませんでしたか?

廣瀬:確かに、例えばプラスチックが生んだPET(ポリエチレンテレフタレート)からは、ペットボトルはもちろんポリエステルの洋服までつくれます。しかしこれまで私自身デザイナーとしてさまざまな素材を扱ってきた経験から、植物由来の繊維などからもそれ以上の万能な素材が作れるのではないかと考えました。

――昨今、企業の環境への配慮も広がっていますが、素材循環は確立できておらず、多くの材料はいまだに廃棄となっていますよね。

廣瀬: そうですね。だからこそ、オリジナルブレンドマテリアルは当初から「素材循環を実現させること」を第一に考えました。

素材循環のイメージ。一度つくったものを廃棄するのではなく、使い終わった後に回収して新たなものとして生まれ変わらせ、その循環をループさせ続ける

ここで重要になるのが、商品を購入したお客さまにリサイクルに回すというアクションまでつなげてもらうことです。単に企業側が環境にいいものをつくるだけでは、素材循環を起こすのは難しい。捨てるか、再生に回すかを決めるのはお客さまで、「このパッケージを手にしたお客さまが、どのような行動を起こしたいと思うか?」といった視点から考える必要があるんです。

――オリジナルブレンドマテリアルには「竹」「さとうきびの搾りかす」「リサイクルペーパー」と、少し変わった素材を、しかも産地を指定して使用していますよね。

廣瀬:はい。人は「知る」ことで行動に変化が現れます。いずれの原材料も環境に配慮しており、かつイメージがしやすいものです。お客さまに知ってもらえれば自分事として感じてもらうことができ、リサイクル行動につながるのではないかと考えたためでした。

「竹」は短い期間で成長する植物です。また、竹といえばパンダ、パンダといえば中国を多くの人がイメージできますよね。中国・貴州で持続可能な栽培伐採をしている3つの山から採集しています。一部の竹は野生のパンダが食すので、それ以外の竹を選んでいます。

「さとうきびの搾りかす」は、砂糖の製造過程で生じるものを使用しています。砂糖は身近な甘味料であるため、こちらも誰もがすぐにイメージできると思います。

「リサイクルペーパー」は、皆さんがリサイクルに回した紙。紙をリサイクルに回したことがある人は「自分がリサイクルしたものが使われているんだ」と想像できますよね。回収地はオリジナルブレンドマテリアルを製造する工場の近くを指定しています。

持続可能な栽培をしている産地を探すため、現地にも足を運んだ

――正直、リサイクルペーパーから再生紙をつくる方が圧倒的に簡単なのではと感じます。

廣瀬:そうですね。ただ紙をつくるだけなら、こんな回りくどいやり方はしなくていいんです。私たちは素材循環を起こすためにオリジナルブレンドマテリアルをつくっています。ソニーの製品は世界で広く販売されているので、複数の素材を使用することでより多くのお客さまに自分事として捉えてもらえる確率を高めることを狙いました。

廣瀬 賢一さん(ソニーグループ株式会社 クリエイティブセンター デザイナー)

「半分以上の反対がなければ案を捨てる」。本質を見誤らず、新しいものをつくり続けるために

――最初にオリジナルブレンドマテリアルを試作した際の周囲からの反応は覚えていますか。

廣瀬:賛否両論……いえ、否定の声も多かったですね。

――反対意見にめげることはなかったのですか?

廣瀬:どんなものでも、今までにないものや従来の流れに反するものをつくれば必ず反対意見が出ます。むしろ全員が賛成するものって、もうみんなが知っているものです。価値観がすでにあり、安心で、失敗しないとわかっているもの。だから私たちは、出した案に半分以上の人から反対意見が出てこなければ、その案を捨てるんです。

最初に反対があまりに多いと「駄目なのか」と諦めてしまいたくなるのが人間です。会社によっては投資をやめたりもします。ところが、ソニーは「今ないからやってみたい」と言うと「やってみようか」になるんですよ。これって面白いですよね。

ソニーのデザイン部門であるクリエイティブセンターには「『原型』を創る」というフィロソフィーがあり、「先駆」・「本質」・「共感」の柱があります。このフィロソフィーがあるからこそ実現している文化なのだと感じます。

 ――ソニーネットワークコミュニケーションズでは2025年よりオリジナルブレンドマテリアルを名刺に採用しました。

廣瀬:名刺は一つの入口で、人と初めて会ったときに渡す、自己紹介を兼ねたものです。名刺にオリジナルブレンドマテリアルを活用することで、初めて会った人とも「環境」という会話のきっかけを生むことができると考えています。そうして少しずつ環境のことを考えてくれる機会が増えると、開発に携わった身としても大変嬉しいですね。

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【編集後記】
ちょうど先日、新しい名刺をお客さまへお渡しする機会があったソニーネットワークコミュニケーションズの社員も、まさに、名刺をきっかけに環境問題についての会話が生まれたと言います。お客さまが環境に配慮した素材に関心があったことから、「ぜひ、オリジナルブレンドマテリアルについて詳しく知りたい!」と反応をいただいたそうです。

ソニーネットワークコミュニケーションズは、2025年1月末時点で全社員・約900名の名刺の切り替えを始めました。無駄な廃棄を避けるため、切り替えは順次、必要に応じて進めています。また、一部の子会社においても今春の導入に向けて準備を進めています。

環境問題について、思っていることを口にする。小さな行動かもしれませんが、話すことから環境問題を改善していけると私たちは信じています。
これから新しい名刺でご挨拶させていただく皆さま、ぜひ私たちの名刺のこと、環境のこと、一緒にお話させてください。


最後までお読みいただきありがとうございました。
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