増え続ける通信の電力消費量。環境負荷を食い止めるために、今できること
動画を見たり、テレビ会議に参加したり。そんな誰もが行う行動が、じつは環境問題に影響を及ぼしていたら…。
通信サービスは目に見えないものですが、電力を使用するため当然環境へも負荷を与えています。それらを少しでも改善するために――。ソニーネットワークコミュニケーションズでは持続可能な社会の実現に向けた取り組みに挑んでいます。
今回は、執行役員の中村をはじめ、NURO技術部門、情報基盤・開発部門にて技術の力で環境負荷の低減に取り組む3名に話を聞きました。
2050年には400〜500倍に。通信による電力消費の上昇を食い止める
――皆さんが「環境問題」と聞いて最初に思い浮かべるのは、どのようなことですか?
中村:私は、気候変動による温暖化です。昔も夏は暑かったけれど、夕立が降った後などはひんやりして一晩涼しく過ごせていたんですよね。かつては扇風機だけで過ごせていたのに、今はクーラーがないと暮らせなくなってしまいました。
山口:雨の日が増えたり、桜の開花時期が早まったりと、日本の気候もだいぶ変わってきましたよね。たった数十年なのに、こんな変わってしまうんだと不安を感じている人は多いのではないでしょうか。
中村:気候変動への対応として、ソニーネットワークコミュニケーションズでも、「エネルギー消費量の削減」と「GHG(温室効果ガス)排出量の削減」を掲げ、通信事業者視点での環境問題への取り組みをスタートさせています。
――通信事業は環境にどのような影響を与えているのでしょうか?
中村:たとえば自動車の場合は排気ガスを出したり、食品の場合は廃棄されるものがあったりと、いずれも環境に悪影響なことが目に見えますが、通信の場合は目に見えないんですよね。しかし実際は、ものすごく電力を使っていて環境負荷が高いのです。
私が最初に衝撃を受けたのは、JST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)が公開したレポート(※)です。それによると、通信事業で消費する電力量は、2018年から2050年にかけて400〜500倍に増加すると試算されています。
まさに今、急速に発達しているAIも、便利ではありつつも消費電力はかなり大きいんです。今後、世の中がより便利になるにつれ、あらゆる機器がネットにつながるようになると考えられます。しかし、現状の通信機器を使い続けるなら、電力消費量がこのまま右肩上がりを続け、今まで以上に環境負荷を与えるものになるでしょう。ショッキングな数字を前に、率直に「私たちが何とかせなあかん」と思いました。
※国立研究開発法人 科学技術振興機構低炭素社会戦略センター「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響 (Vol.3) -ネットワーク関連消費エネルギーの現状と将来予測および技術的課題-」(2021年2月)
技術の力で環境負荷を食い止める。その具体策とは?
――電力消費を抑えるための具体的な取り組みを教えてください。
中村:今年3月、会社として取り組むべき重要課題である「気候変動への対応」と「資源の循環の実現」に対して、「消費電力量を2025年度に2021年度比50%削減する」「機器の再生プラスチック使用率76%を2025年度に達成する」など具体的な目標値を設定しました。
その目標値を達成するために、私たちは次のこと取り組んでいます。
じつは固定回線で使用する電力のうち、ONUが使用する電力が全体の8割を占めています。残りの2割が、局舎やデータセンターで使用する電力。その両方の使用電力量を削減していこうとしています。
――最も大きな効果を期待できそうなのが「エネルギー効率の良いONUの開発・選定」ですね。
三澤:そうです。ありがたいことに「NURO 光」では年々お客さまが増えています。また1日に使う1人あたりのデータ量がここ数年で3〜4倍に増加しているなど、各ご家庭での通信量は毎年上昇の一途を辿っています。
AIが登場し、便利な機器が増え、電力を下げることと逆行した動きになっている世の中で、目標を変えずにやっていく難しさはあると思いますが、まずは2025年度までに「消費電力量を50%削減」を達成するべく、現在ONU開発チームを立ち上げ、技術を結集させているところです。時代の流れを超える技術革新を、私たちが担います。
――データセンターや局舎設備では、どのような取り組みをするのでしょうか。
山口:データセンターや局舎の通信設備には、ONUから出てくるトラフィックを束ねて収容するOLT(光回線終端装置)や、OLTをさらに集約するためのルーターやスイッチなどがあります。それらをメーカーから調達する際、消費電力抑制に取り組んでいるものを採用していきます。
すでに数年前から開始してはいますが、すぐに取り替えられるものではないので、年単位の計画を進めています。また、機器は進化していくため、新しいものが市場に出れば、その都度できるだけ省電力なものを適切なコストで選定し、導入していくつもりです。
――再生材の使用率を上げるための取り組みについても教えてください。
三澤:これまで、通信業界で再生材の利用があまり進んでこなかった背景には、再生材は高単価のわりに強度が弱く、色の展開も少ないことなどの課題がありました。まだ開発段階ですが、私たちの開発するONUに合うかどうかを試しながら、再生材とバージン材の良いバランスが見つけていきたいと考えています。
「オンライン会議の参加を減らす」「カメラはオフに」!? 目指す未来に向けて今日からできることとは
――皆さんが実現させたい社会を教えてください。
中村:持続可能な社会は、誰かが不利益を被るようでは持続しないもの。「会社」と「お客さま」と「地球」それぞれのバランスをとる必要があると思っています。
ただし、たとえば再生材の利用率を上げることで生まれる負担は、ソニーネットワークコミュニケーションズで持つ考えでいます。「ソニーグループの製品は環境に優しい」と皆さんに感じていただき多くの方に選ばれることになれば、ゆくゆくは採算が取れるはず。一時的に私たちの利益を下げたとしても、それがひいては業界全体の再生材の利用率を上げることにつながると信じています。
お客さまに頼るのは「やれることはやった、もうこれ以上はできない」となった、最後の最後だと思っています。それまでは私たちにできる最大限の技術革新を行うつもりです。
山口:私たちはインフラの会社。私の望みは、そのインフラを、お客さんに環境問題を考えずに利用してもらうことです。「使うだけで知らない間に環境に良い行動ができていた」というのが一番いいんですよね。そのために私たち技術者は、技術者としてできることを模索していきます。
三澤:僕はもともとXperiaを作っていました。台数も多く、ヨーロッパでも展開していたXperiaは、素材選びや省電力化などの環境に対する意識が高い製品。それが当たり前と思っていたのですが、日本国内の固定通信業界で開発されているものの多くは違いました。ずっと「次は環境面に配慮されたものが主軸になっていくんだろうな」という感覚があり、ようやく世の中がその方向を向いてきたように感じます。
5年後、10年後には、さらにお客さまも増え、データ使用量の上昇率もより高くなるはず。そうなる準備をしっかりやっていかなくてはと思っています。
――通信にかかる消費電力の削減において、いちユーザーとして、今日から取り組めることはありますか?
中村:たとえば次のような行動で、少しずつ通信にかかる消費電力量を下げられます。
地球全体で見ると小さいけど、私も取り組めることからスタートしています。「オンライン会議が予定よりも早く終わったら、みんなで褒め合う」など、楽しんで取り組んでいけるようにしたいですね。
ソニーネットワークコミュニケーションズの環境への取り組みについて少しでも興味を持ってくださった方は、♡(スキ)を押して教えてくださいね。